~狂恋~夫は妻を囲う
「え……?」
「用件ってのは、簡単よ!
手を退いて……!!
貴女、自分が本当に魁聖さんにつり合うと思ってるの?」
「それは……」
「貴女って、地味で幸薄そうだわ…!
魁聖さんレベルと対等に付き合えるのは、私みたいなタイプよ!」
「………」

彩羽は言い返せなかった。
そんなこと、自分が一番思っていたから。
実際聖子に紹介され、魁聖から告白された時、何度も“自分でいいのか”と聞いたくらいだ。

「あ、もう行かないと!
今日、店に魁聖さんが来てくださるの!」
悔しさに下唇を噛んだ彩羽を置いて、理恵は去っていった。

その日はなかなか魁聖は帰って来ず、帰ってきたのは、日付が変わった午前一時頃だった。
「ただいま~
………って寝てるよな…」
真っ暗な室内。
魁聖は、寝室に向かう。
でも、彩羽がいない。
「は?なんで?
彩羽!?」
リビングに向かうと、真っ暗な月明かりだけの部屋に彩羽がソファに座っていた。

ダイニングテーブルの上には食器がセッティングされていて、彩羽が食べた様子もない。
「いろちゃん……?」
静かに呼びかけると、彩羽がゆっくり振り返った。

「あ…良かった……ちゃんと、帰ってきてくれた…」
「え……」
「魁聖……来て?」
「うん…」
ゆっくりソファに向かい、彩羽の横に座った。
「ギュってして?」
「うん」
言われた通り、抱き締める。

「あーやっぱり……」
「ん?いろちゃん?」
「魁聖」
「ん?」
「私だけが、魁聖に何をしても許されるんだよね?」
「うん…そうだよ」

「じゃあ…私の言うこと聞いて?」
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