猫かぶりな僕ら
 ドクドクと鳴る心臓の音を感じながら、急いで足をテーブルから下して顔を上げると、そこには一人の男子生徒がいた。
 その生徒を、私は知っている。

「こ、こんにちは……小町先輩……」

 小町陽翔。
 二年生で強豪バスケ部の主将、おまけに勉強も出来る文武両道な生徒で、深倉山高校きっての優等生だ。
 高身長のイケメンとあって、女子からの人気も高い。
 そしてそんな先輩が、私は苦手だった。

 自分の事を棚に上げておいてなんだけど、私は同じように”仮面を被った優等生”を避けていた。
 小町先輩からは、なんとなくそんな気配がしていたから。
 これが同族嫌悪というやつだろうか。

 小町先輩は黙ったままこちらを見下ろしていて、手持ち無沙汰になった私はスマホからイヤホンを抜いてポケットにしまう。
 そしてもう一度先輩を見上げると、綺麗な顔立ちがにいぃと歪んだ笑みを浮かべていた。

 ――あぁ、終わったな。

 平和な学校生活の終わりを、薄暗い準備室で感じた。
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