白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーと囚われの怪盗アプリコット・ムーン
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怪盗アプリコット・ムーンがスワンレイク王国憲兵団長ウィルバー・スワンレイクに捕まり、花の離宮の地下監獄へ収監された翌朝。
一晩中檻の外で目を光らせていたウィルバーは朝食とともに姿を消し、別の男がやって来た。
てっきり交代に来た見張りの男だと思ったのだが、それは昨晩王の影武者を勤めた宰相ジェイニーが憲兵に変装して忍び込んできた姿で、ローザベルを唖然とさせる。
「……無様ね」
「ジェイニー。どうして」
「怪盗アプリコット・ムーン。君が盗んだはずの“稀なる石”はすべて元の場所へと還って行ったよ。捕まる直前に、“やりなおしの魔法”を唱えたのだね……」
ジェイニーの憂えた瞳は幼馴染のローザベルではなく、国のあり方を変革しかねない“やりなおしの魔法”を安易につかった怪盗アプリコット・ムーンへ向けられているのだろう。もしかしたら彼女も“やりなおしの魔法”によってローザベルの存在を忘れてしまっただけかもしれないが。
檻の向こうから動きを封じられた怪盗アプリコット・ムーンを一瞥し、ジェイニーがため息をつく。
ローザベルは彼女がどこまで知っているのか怪訝そうな表情を浮かべながら反論する。