白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「ええ。だけど国主を変えるような“確変”は起こってない……わたしはただ」
「視えるからいいわけは不要だよ。この“世界”に変わって“ローザベル・ノーザンクロス”の存在は消えた。いまの君はただの“アプリコット・ムーン”でしかない」
「そう……」
やはり、魔術師ジェイミーの記憶のなかにもローザベルの存在は残っていないのだろう。ただ、透視の魔法によってアプリコット・ムーンの心を読み取ったから、なんとなく状況が理解できているのだ。
「このボクでさえ記憶をリセットされたんだ。君が愛していた夫の憲兵団長は、妻のことなどすっかり忘れているだろうよ。いまは君のことを憎き女怪盗としてしか見ていない」
「でも」
「喋るな。わかってる。君はそれでも彼を護るために“稀なる石”をつかって自分の存在を消す“やりなおしの魔法”を選択したんだものな。かつての幼馴染だった、不器用な怪盗さんよ」
国王アイカラスの宰相であるジェイニーは、彼がローザベルの記憶を失わなかったことを知っているのだろう。そのことを確認したくて、わざわざ花の離宮を訪れたのかもしれない。