白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「ジェイミー。残念だけど、“ローザベル・ノーザンクロス”の存在が消えたことで、わたしが生まれながらに持っていた古代魔術を扱うちからは消滅しているの。いまはただの名無しのアプリコット・ムーン。手元に“稀なる石”があったとしても、以前のような強大なちからはもう、つかえない」
「――それは、ほんとうなのか」
ジェイミーの背後から響く声に、ローザベルはびくっと身体を震わせる。ジェイミーは臣下の礼を素早く取り、場所を譲る。
「国王、アイカラス」
「お前が持つ古代魔術の能力は、ノーザンクロスの星詠みのちからは、消滅したのか?」
「完全な消滅まではしてないわ……精霊の姿を視ることはできるので。星詠みについては……わからない、です。ただ、“稀なる石”をつかった大がかりな魔法はもう……」
「そうか」
だから役立たずなのだとつづけようとするローザベルに、アイカラスは告げる。
「もはやお前は王家に不要だな。ウィルバー・スワンレイクには別の娘を花嫁としてあてがうことにする」
「あ」
その言葉は、極刑を言い渡されるよりもきつくて。
怪盗アプリコット・ムーン……ローザベル・スワンレイクはじゃらじゃらと枷を鳴らしながら、がっくりと項垂れる――……