白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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だというのに。
――なぜ、このような状況に陥っているのだろう。
「捕まえたからには取り調べをしっかり行えと王の達しだ。まずはその気が滅入るような黒装束を脱げ」
「……え?」
かつての夫で憲兵団長のウィルバーによってはじまった突然の身体検査。魔力封じの手枷をつけた状態で服を脱ぐのは無理がある。ローザベルが首を横に振れば、彼は忌々しそうに懐から短剣を取りだし、背中を切りつけた。
「痛っ……!」
「おっと手が滑った。布だけを切り裂くつもりだったんだが……悪い」
「ひどいわ、いきなり切りつけるなんて」
「お前がおとなしく脱がないからいけない」
「枷のついた状態で脱げるわけないじゃない!」
「いま消毒する。舐めれば治るだろ」
「え――きゃ……」
ウィルバーが怪盗アプリコット・ムーンの背後にまわり素早く傷を確認する。
はらりと背中から剥がれ落ちた黒装束の布の向こうからのぞく雪のような白さの肌に、ぴっと紅い線が走っていた――傷つけるつもりなどけしてなかったはずなのに、勢い余ってつけてしまったひとすじの紅。