白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「……え」

 ローザベルはその言葉にぎくりとする。怪盗アプリコット・ムーンは王城へ連行され王の元で裁きを受けるのだと、そう思っていたのに、彼はこの花の離宮から自分を出すつもりがない?

「国王陛下が言うには、この『美しい監獄』にお前をつなぎ、すべてを吐かせろ、だとよ。とうぜん、全権は俺に委ねられている」
「――うつくしいかんごく」

 神殿跡地には妖精王が眠っていた聖棺のある石室と、儀式のための空間、罪人を捕らえるための檻に、拷問と処刑のための部屋があるという。
 国王アイカラスはそれを『美しい監獄』と称し、憲兵団長ウィルバーに花の離宮とともに管理を委ねていたらしい。彼の腰にぶらさがっている鍵束が、その証だろう。

「つまり、ここにお前が囚われている間は、俺が何をしても……殺さない限りは問題にならない。なぜ“稀なる石”などという旧時代の遺物ばかり盗んだのか、その目的と共犯者、国家を揺るがす陰謀があるのならすべてを明かさせる必要があるからだ」
「すべて……?」
「そう、すべて……そこにはお前の身体にきくことも含まれる」
「!」
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