白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「なぁに。こう見えても淑女には優しい俺だ。手酷い拷問をするつもりはいまのところない……さっきみたいにうっかり傷つけてしまう可能性はあるがな」
獣のように空色の瞳をぎらつかせて、目の前の男がローザベルの裸体を腕で絡めとる。抱き寄せられたことでローザベルの心拍数が一気にあがる。
ウィルバーの香りも、姿も変わっていない。だというのに、目の前で自分を抱き締めているのはかつての夫とはまるで別人のような男。
自分に関する記憶を抹消しただけで、こんなにも性格は変わってしまうものなのだろうか……
“ローザベル・ノーザンクロス”という存在と関わることなく二十年間を生きた男に囁かれ、ローザベルは言葉を失う。
「すべての取り調べを終えたら、お前を王公認の俺の奴隷にしてやる。他の男に抱かれた記憶なんかすぐに塗りつぶして……俺だけの女にする……いいな」