白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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「それでは、陛下が先日までご一緒だった憲兵団長と現在の憲兵団長はまるで別人だ、と……」
玉座で悩ましげに息をつく国王アイカラスの前で、宰相ジェイニーはしずかに問う。
魔術師であるジェイニーすら、ローザベルの記憶をすっぱ抜かれた状態なのだ、ウィルバーなどすっからかんにされても仕方がないはずだ。
「……わしの知るウィルは温厚で、不器用で、それでいて優しい男だった。“愛”を失うとあんなにも変わってしまうのか……」
「そりゃそうでしょう。十歳のときから政略結婚を決められていたふたりですよ。お互い強く想いつづけて十八で結婚、早く子どもを作りたいと急かす夫と彼の“不確定な未来”を確変させるため“稀なる石”を盗んで怪盗稼業に精をだしていた妻……その結果が、自分の記憶を消し去るという強制終了する魔法です。記憶を抹消された人間にその残滓があるわけ」
「――あったんだよ」
「はい?」
愛する妻の記憶が消えたから、現在の彼は冷徹敏腕な憲兵団長として国民に認められているというのに、アイカラスはそうじゃなかったのだと嘆く。