白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「褒美を取らせると言ったら、あやつは……自分が捕まえた女怪盗を自分の愛玩奴隷(オモチャ)にしたいと」
「……へ」
「かつてあれだけ溺愛した妻を、今度は自分の奴隷にするだと!? どの口が言ってるんだ、って怒鳴り散らしたかったが、黙っておいた……記憶のない人間に言ったところで通じないからな」
「はあ」
「それに、愛する妻の記憶が消えたからか、その隙間にアルヴスにいた頃の荒んだ思春期の思い出が入り込んであんな状態になったんだろう……そう考えると、ウィルに怪盗アプリコット・ムーンの処遇を任せるのは、悪いことではないのかもしれない」

 それでも納得できないと唸るアイカラスを、ジェイニーがまぁまぁと宥める。

「陛下はさきほどこうおっしゃってましたよね、『ウィルバー・スワンレイクには別の女を花嫁にする』と」
「ああ言ったさ。けど、いまのウィルを結婚させるのは至難の技だ……あそこまで怪盗アプリコット・ムーンに執着しているとは思わなんだ」

 怪盗アプリコット・ムーンを捕らえ、花の離宮にある美しい監獄へつなげと命令したのはたしかにアイカラスだ。
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