白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
現にウィルバーは花の離宮で独り暮らしをしていた。妻が暮らしていた痕跡なのか、誰のものかわからない女ものの衣類や花柄の小物などが残ったままだという報告も受けている。
まるで狐につままれたような状態で、アイカラスはこの現実と向き合っていた。
だが、怪盗アプリコット・ムーンとして捕らえられたローザベルもきっと同じような状況なのだろう。自分の記憶を消したことで、かつての夫があのように変貌してしまうことまでは、きっと未来視していなかったに違いない。
その彼に、今度は愛玩奴隷として望まれているなどと知ったら――……
「陛下……それで、どのように応えたのです」
「奴隷の件は保留にしておいた。けれど、花の離宮内での取り調べに関しては一任した。殺さない限りは何をしてもいい、すべてを聞き出せ……と」
ローザベルには辛い想いをさせるかもしれないが、ウィルバーに怪盗アプリコット・ムーンの真相を突きつけるためには欠かせないことだと心のなかでいいわけして、アイカラスは自嘲する。