白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
愛する夫を守るため、“やりなおしの魔法”で夫から自分の記憶を消し去った妻が目の前にいると知ったら――彼は“愛”を取り戻せるのだろうか?
「悪趣味ですね」
ジェイニーにきっぱり言い切られ、アイカラスは嗤う。「夫を王殺しにはさせない」そう言って捕まったというのに、自分はまだ、彼女を暴こうとしているのだ。変わり果てた甥をもとに戻したくて……
「古代魔術を扱えた“ローザベル・ノーザンクロス”はここにいない。いるのはただの怪盗アプリコット・ムーンだ。彼女がほんとうに彼を守りたいといまも想っているのならば……その“愛”で魔法はつかえると思わないかね?」
「ごたくはいいですよ透視できておりますので。あのですね、陛下、別の観点から可能性を申し上げます」
「ほう?」
うじうじしている国王にしびれを切らしたのか、ジェイニーが堰を切ったように喋りだす。
「今回の事件の責任を取って、国王の座を引退し、第一王子に譲ることで、“ローザベル・ノーザンクロス”が気に病んでいた“不確定な未来”は解消されます。怪盗アプリコット・ムーンは『夫を王殺しにはさせない』と言ったんですよね?」
「……あ、ああ」