白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「かつてはそう呼ばれて秘されていた部屋だというが、実際には罪人を裁くための拷問台と、いくつかの道具が残っているだけだ。残念だが、お前を苛められそうな道具はこんなものしかなかった」
「……ひっ」
それは鋼鉄製の、梨のような形をした拷問器具。張り型にしてはごつく、先端のまるい部分が捻れるようになっている。
「アルヴスでは“苦悩の梨”と呼ばれてるんだ……お前のナカにこれを入れて、ねじをまわすと、内部の突起がせりだし、花が咲く仕組みさ。魔女ならどうってことないだろう?」
「む、むり……そんなの入れられない……」
「ふぅん。じゃあ、こっちにしようか」
にやにや笑いながら指差された先にあるのは、シンプルな拷問台だ。
「両手と両足を拘束したら、あとは棘のついたローラーが」
「痛いのは無理ですっ!」
思わず素の自分になって彼の言葉を遮ってしまった。
目に涙を浮かべて訴えるローザベルを見下ろし、ウィルバーは苦笑を浮かべている。その困り果てた仕草は、さきほどまでの冷徹で傲慢な雰囲気を一蹴する、まるでかつてのローザベルを覚えているときの穏やかな彼のようだった。