白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「あぁ、泣くなよ困ったな……痛くない拷問ならいいのか?」
「う……」
王命で殺さない限りは何をしても構わないと言われているウィルバーは、手っ取り早く拷問にかけて彼女の口から真相を聞き出すつもりでいたのかもしれない。
ただ、その拷問が彼女を傷つける類のものばかりで、思いがけず怖がらせ、泣かせてしまったことで、彼もまた立ち止まっている。それとも自白を強要しなくてはいけないのに、罪人に「痛いのは無理」と泣かれて興が削がれたのか……
ローザベルは泣き顔を隠すように俯く。けれどウィルバーは彼女の顔を覗き込んで諭すように言葉を紡ぐ。
「なぁ。俺はお前からこの事件の全貌を聞き出さなくてはいけないんだよ。ぜんぶ吐かせるために拷問にかけようと思って連れてきたんだが……お前みたいな美しい女を傷つけるのは気が引ける」
「……なにそれ」
きょとん、とした表情のローザベルを見やり、「よしよし、泣き止んだな」と彼女のあたまを撫でて、ウィルバーが頷く。
「そうだ、痛くない拷問にしよう。な、棘を取り除けば問題ないだろ? せっかくだから拷問台に縛りつけて……」