白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「単独犯だというのか? そんなこと」
「国王陛下に仇なすつもりじゃなかった、の」
自分が“稀なる石”を盗んでいたのは、目の前にいる夫ウィルバーの危機を回避したかったから。けれど、目の前にいる彼に伝えたところで、彼はきっと、信じない。
拷問台の上で拘束された状態で悦ぶ女が「あなたを救いたかったの」と訴えたところで、気がふれていると思われて終わりだ。
「それはどうかな」
「……ほんとうの、ことよ?」
身体を火照らせながらローザベルは弱々しく応える。もっと深いところに刺激が欲しい、彼とひとつになって……そんなふうにはしたない欲望をのぞかせる彼女を、ウィルバーは胡散臭そうに見つめ、首を振る。
「――今日はここまでにしておく。身体はずいぶん欲深いようだが、心の方は強情みたいだからな」
「そんな……」
カチャリ、と拷問台に縛りつけられていた鎖と枷を外され、ローザベルの身体が床の上へと下ろされる。両手両足が一時的に自由を取り戻したにも関わらず、ローザベルは動けなかった。ぺたりと床の上に座り込み、呼吸を整えるので精一杯だったから。