白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「ハダカで過ごしていたいなら俺は別に構わないが」
「着ます着ます! お心遣い感謝いたします!」

 むしろ着ている方が羞恥心を煽るようなガウンだが、なにも着ていない状態よりはマシだろう。それに、城から運ばれてきた寝台はローザベルが一昨日まで使っていた馴染みのあるものだ。
 どうやらローザベルの記憶がウィルバーのなかから消えているだけで、ローザベルが花の離宮で過ごしていた痕跡は残っているらしい。

 ――だとしたらこのガウン、はじめから(わたし)に着せるつもりだったの?

 複雑な気持ちになりながら、ローザベルはガウンに袖を通し、逃げるように寝台へ潜り込む。
 どこか可笑しそうに彼女を見つめていたウィルバーは、ふたたび彼女の右手首に魔法の枷をはめてから、寝台の柱へ長い鎖でつなぐ。顔を隠してしまった彼女を見つめていた空色の瞳が柔らかいものになっていたことに、ローザベルは気づかない。
 けれど、そのまま檻の外へ出て、鍵をかけて、去っていく間際の。

「――ちゃんと休めよ」

 慈雨のような優しい声に、ローザベルは泣きそうになる。
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