白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーと怪盗アプリコット・ムーンと昔の男
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花の離宮の神殿跡地にある美しい監獄につながれ、ウィルバーから甘い拷問を受けた翌朝。
扇情的なピンクのガウンを一枚だけ羽織った状態のローザベルは、物音で目覚め、寝台から降りた。じゃらり、という鎖の音が寝起きの彼女の内耳に響く。
目をしばたかせれば、檻の鍵をひらいてずかずかと入ってきたウィルバーの姿があった。そのままぬっと差し出されたのは、まるいトレイ。
「これは?」
「朝食だ」
「見ればわかるわ」
木製のトレイの上に並べられているのは見慣れた食器と、時間が経ってそうな固いパンとくず野菜のスープだ。もしかしたらウィルバーが独断で準備してきたのかもしれない。ふだん、料理などしない彼がどんな表情をしてこの朝食を用意したのかと考えると、ローザベルは複雑な気持ちになる。
寝台の隅に添えられているちいさな台に朝食が入ったトレイを乗せ、ウィルバーは困惑してその場に立ち尽くしているローザベルに言いつのる。
「昨日は食べないであのまま眠ってしまっただろ。まる一日なにも食べていない状態なんだ、体力を残してもらわないと事情聴取どころじゃない」
「昨日はそれどころじゃなかったくせに」