白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「なっ……んぁんっく!」

 抵抗することなど許さないと腕に捕らえられた状態で、固パンを口移しで食べさせにきたウィルバー。じゅわっと染み込んだスープが、いままで空腹だったことを思い出させ、ローザベルは渋々彼からの口移しを受け入れ、朝食を摂取していく。
 親鳥から餌を与えられるかのような食事を終えて、ふぅと息をつくローザベルを、空色の瞳がいつまでも見つめている。

 ――どうして、そんな目でわたしを見るの?

 もっと残酷な方法で自白を促されるものだと思っていた。夫だった彼から自分の記憶を奪ったのだから。
 王家を蔑んだ憎い怪盗アプリコット・ムーンとして捕まったら、処刑されて終わりだと理解していた。だからローザベルは彼の手にかかることを覚悟して、彼を救うための“やりなおしの魔法”をつかった。
 それなのに、彼は怪盗アプリコット・ムーンを自分だけの愛玩奴隷にするのだと王に願い出ている。“不確定な未来”はローザベルの存在が消えたことで回避されたはずなのに、なぜだか不安になってしまう。
 おまけに檻から出して寝室に監禁って?

 ――怪盗アプリコット・ムーンを捕まえたら、一緒に寝室で寝てあげる。
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