白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーとローザベルとふたりの想い
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――調子に乗り過ぎたか。
浴室で溺れるようにキスをして、失神してしまった怪盗アプリコット・ムーンを抱き上げ、ウィルバーはそうっと湯につかる。自分が清めた彼女の身体は、ほんのり桃色がかっていて、艶めいている。
背中には黒装束を脱がせたさいにつけた傷が縦に走っている。ウィルバーは気を失ったままの彼女の背中に舌を這わせ、ぴくりと動くのを見て自嘲する。
――なぜだろう、あのとき。怪盗アプリコット・ムーンを捕まえてその素顔を暴いたとき。
「……俺のモノだと思ったんだ」
ウィルバーは湯船につかりながら反芻する。ここ数日の自分は、どこか冷静さを失っている気がする。ずっと追いかけてきた怪盗アプリコット・ムーンをこの手で捕まえてから、自分の世界が彼女を中心に廻りはじめてしまったかのようで……
国家を侮辱した憎い女怪盗を捕らえた英雄として評価されて、王から褒美を与えられると言われたときも、真っ先に浮かんだのは翡翠色の瞳の彼女だった。