白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーは首筋や胸のふくらみに散らされた赤いキスマークの花を見て、愕然とした。新雪のようにまっさらだと思った肌は、既に何者かによって踏み荒らされていたのだから……
「だけどもう、帰さない。ずっとこのアプリコット・ムーンの花が咲き乱れる花の離宮につないで……君が俺のことしか見ないように、それこそ、調教しないと……」
美しい彼女を拷問にかけるのは気が引けた。けれど王命を考えれば早く真相を突き止めなくてはならない。
だというのに拷問器具を前に涙を浮かべた彼女を見て、自分もまた悪者になりきれないと悟ってしまった。
しまいには痛くない拷問だといいわけして、彼女の身体を弄んでしまう始末。
拷問台にしばりつけられた裸体の彼女を見て感じたのは、いままで自分にあると思わなかった嗜虐性の発芽。
彼女を苛めたい、虐げたい……その一方で気持ちよくさせたい、俺だけを見てほしいという独占欲も膨らんで、ウィルバーのあたまのなかはいつしかぐしゃぐしゃになっていた。
一度は外した魔法封じの枷を取りだし、眠る彼女の右手首にかちりと嵌める。こうすれば、彼女はもう逃げ出せない。