白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ――だけどそれは妻としてではない、愛玩奴隷として面白がられているだけのことよ。

 いまのローザベルは忘れ去られたただの名前のない娘だ。
 女怪盗アプリコット・ムーンという記号すら奪われてしまったら、この世界で生きる術は無に等しい。
 もしかしたらウィルバーは、ただ単に自分を飼い殺したいだけなのかもしれない。王家を侮辱した女怪盗を自分のモノにして、性欲を満たす愛玩奴隷として手元に置きつづけることで国を救った英雄になったという自尊心を保てるのだから。
 これは、妻の記憶を奪われた彼なりの無意識が為せる復讐なのでは……?
 ローザベルはその考えに至ってぶるりと身体を震わせてしまう。そんなわけない。さっき浴室で彼と交わした口づけは情熱的で、とてもじゃないけれど復讐なんて単語とは無縁だったもの。だけど……

 ひとりで難しく考えていても応えがでてくるものではない。
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