白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ローザベルははぁとため息をつき、古語を唱える。魔法封じの枷をつけられた状態でも、簡単な透視術くらいつかえるかと思ったのだが、魔法はつかえなかった。きっと、“やりなおしの魔法”をつかってしまったことで一度は結び付いたウィルバーとの“愛”が途切れ、契約がなかったものとされてしまったのだ。
もういちど魔法を扱えるようになるには“星詠み”のノーザンクロス一族の魔力を再構築し、ウィルバーとの“愛”をなんらかの形で再確認しなくてはいけない。けれど、ちからを失ったいまのローザベルにはどちらも難しく感じられる。
ただ、いまのウィルバーが、ただの娘になってしまったローザベルをふたたび本気で愛してくれるというのなら、奇跡が起こる可能性はゼロではない。
さんざん悩まされていた“不確定な未来”は消えたのだ。怪盗アプリコット・ムーンの仕事はこれでおわり。王の処遇を待っていたら、このままウィルバーに飼い殺されてしまう。ならばその前に……ただのローザベルは奮い立つ。
――消し去った記憶をもとに戻す魔法はもう、つかえないけれど。
寝台の上でローザベルは決意する。