白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 いつまでも監禁されっぱなしでいるわけにもいかない。真実を話すことはできないけれど、その代わり――……

 風の精霊がローザベルの周りに集まり、囁くように爽やかな風を起こす。彼らが視えることに安心して、ローザベルは己の唇の上へ言霊を乗せた。

「以前のように魔法をつかえるようになるかはわからないけれど、ウィルバーさま」

 もういちど、ウィルバーがただのローザベルに恋をして、愛しあうことができるのなら……ローザベルが捧げる“愛”が、彼から消えた妻の記憶を優しく塗り替えることだってできるはず。

 一縷の望みを抱いて、ローザベルは自分を気遣う精霊たちに向かって淡く微笑む。

「いまのわたしにできる、せいいっぱいの“愛”を贈ります」
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