白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーと国王陛下と王城の魔術師たち
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「――退位、ですか?」
花の離宮の主寝室に枷と鍵をつけて怪盗アプリコット・ムーンを閉じ込めてきたウィルバーは、国王アイカラスから告げられた言葉に絶句していた。
「わしももうじき五十になる。そろそろ息子のフェリックスに譲ってもいいのではないかという話になってな」
「そんな、急すぎでは」
「そうでもない。以前から言われていたことだ。なかなか怪盗アプリコット・ムーンを捕らえられなかった責任を考えれば、捕まったいまだからこそ安心してこの場を退くことができるとも思わないかね」
「ですが」
国王アイカラスが退位したら次の王位は異母兄のフェリックスになるという。彼の妻オリヴィアはラーウスの古民族に属していた優秀な薬師で、ふたりのあいだには九歳になる息子のダドリーがいる。
行動的なアイカラスと違い、ずっと部屋に閉じ籠っているような彼は、理知的で、ウィルバーからすると近寄りがたい雰囲気を持っている。
怪盗アプリコット・ムーンの処遇を彼が引き継ぐとなると、アイカラスに求めた褒美……怪盗アプリコット・ムーンを自分の愛玩奴隷に、という訴えも容易く破棄されてしまうはずだ。