白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「憲兵団長ウィルバー・スワンレイク。此度の騒動で国民は王家を愚弄した怪盗アプリコット・ムーンが処刑されることを望んでいる。だが、捕縛から二日以上経過している今、お前の事情聴取は遅々として進んでいる様子がうかがえない。国王陛下はこの状況を憂えて、英断なさったのだ」
自分が退位すれば、怪盗アプリコット・ムーンを花の神殿で囲っているウィルバーの目を覚まさせることができるのではないか、と。
――なんだこの茶番。
赤毛の宰相は銀の瞳を伏せてため息をつく。
けれど真面目に語るアイカラスと、彼の言葉に飲み込まれているウィルバーの様子は、端から見ると滑稽きわまりないが、透視すればふたりが真剣そのものだというのはすぐに理解できる。
アイカラスはノーザンクロスの姫君が視たという“不確定な未来”を完膚なきまで消し去るため。
ウィルバーは愛する妻の記憶を失った代償のように執着している怪盗アプリコット・ムーンを自分だけのモノにするため。
けれどふたりの思惑は重なっているようですこしばかしズレている。そのズレを糺そうとする不協和音も混じり、透視をしていたジェイニーを苛立たせていた。