白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ジェイニー自身、幼馴染だった怪盗アプリコット・ムーン……いや、ローザベル・ノーザンクロスか……がこのような場所で古代魔術の知識もろとも消されてしまうのは勿体ないと思っている。
 だからふたりを揺さぶるように、言葉をつづけた。

「……だが、フェリックスが三代目スワンレイク国王となった暁には、怪盗アプリコット・ムーンを恩赦で解放することもできるはずだ」
「……な?」
「取り調べの結果次第だ。彼女が盗んだ“稀なる石”は既に魔法のちからでもとあった場所へと戻ってきている。実質的な被害は見受けられない。王家に対する謀反の疑いだけが、彼女に残っている……黒ならば……」
「ジェイニー、それ以上はなにも言うな。彼だって混乱している。いまはただ、彼女の取り調べをつづけることを優先してくれ。退位の時期についてもまだ決定していないのに」
「はっ」

 ジェイニーの言葉のつづきを訊きたかったウィルバーだったが、アイカラスに遮られたからか、これ以上はなにも言いそうにない。
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