白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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一方的な国王の話に翻弄されながら玉座を辞したウィルバーは、不服そうな表情を浮かべたまま回廊を歩いていく。
その後ろ姿を見送りながら、アイカラスがジェイニーに小声で問う。
「……これで、よいのか」
「さあねっと」
王の前で無責任に応えたジェイニーは、ふいと顔を背け、天鵞絨でできた深緋色のカーテンをがばりと捲る。
「!」
「ダドリー?」
「盗み聞きだなんて、悪い皇太孫さまだね」
「だ、だって……」
アイカラスとウィルバーのやりとりの間にノイズのように入り込んでいた幼稚な感情、ジェイニーを苛立たせた不協和音の正体……ダドリー・スワンレイク。
まだ九歳だというのに、皇太子フェリックスの息子として帝王学を仕込まれ、古代魔術の知識も豊富な天才少年だ。ジェイニー同様、透視の能力を持っており、スワンレイク王家のなかでも特に敵に回したくない人間である。