白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「ならばおじいさまも僕に教えてください! ローザベル・ノーザンクロスって誰ですか? あの“星詠み”のノーザンクロスの一族に娘なんかいな……」
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 あんなに懐いていたダドリーですら、ローザベルの記憶を失くしている。その事実を目の当たりにしたアイカラスはジェイニーに目配せをして重々しい声で告げる。

「――ただ、みんな忘れているだけなんだ」

 スワンレイク王国じゅうの人間が、ローザベル・ノーザンクロスの存在をないものとしている。怪盗アプリコット・ムーンが捕まる直前につかった“やりなおしの魔法”のせいで。

「忘れられた令嬢は怪盗アプリコット・ムーンと同一人物だった。そしてあろうことか憲兵団長……ウィルが愛した妻でもあったのだ。そんな彼女がいま、花の離宮の美しい監獄で、憲兵団長に飼われている……このおかしな状況がわかるかい?」
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