白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「わからない! わからない……けど、苦しいんだ。憲兵団長さんの心のなかに視えていた彼女は、ちっとも幸せそうに見えなかったから……怪盗さん、捕まって奴隷になっちゃったの? 恥ずかしいことされていっぱい泣いてた。いたぶられたら、そのまま殺されちゃうの? だってお姉ちゃんは旦那さんのために“稀なる石”を盗んで」

 あれ? お姉ちゃんって誰だっけ? と首を傾げるダドリーを見て、ジェイニーは「そうだ」とアイカラスに耳打ちする。彼女に言われるがまま、懐から“稀なる石”のついた指輪を差し出す。碧玉のような色合いの宝石を見て、ダドリーが嘆息する。

「あぁ、この色! 深い翠の瞳のお姉ちゃん……ぼくがもっと年上だったら、あんな憲兵団長やっつけて奪ってやるって言っても、そんなことしちゃダメですってぷりぷり怒った可愛いお姉ちゃん……どうしようお姉ちゃん殺されちゃうの!?」
「だから感情垂れ流すな喧しいっ!」

 呆れながらも苦笑を浮かべ、ジェイニーは手にした指輪をダドリーの手のひらに乗せて古語を呟く。と、同時に指輪のなかの“稀なる石”が輝きだす。
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