白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
いや、それよりなぜダドリーが怪盗のお姉ちゃんのことを知っているのだろう。
ウィルバーの心の声を読んだダドリーはキッと睨み付けて噛みつくように言い放つ。
「――お姉ちゃんを悲しませたら許さないんだから!」
そしてそのまま走り去っていく。
モヤモヤした気持ちを持て余したまま、ひとり玉座の間を飛び出してしまったダドリーを、ウィルバーは首を傾げて見送ることしかできなかった。
「……ウィルよ。さきほど伝え忘れたことがあったのだ」
「はい?」
仕方ない奴だと逃げるように去っていったダドリーをフォローするように、アイカラスがとってつけたような用件を告げる。
「花の離宮に戻る前に、オリヴィアのところで薬をもらってこい」
「薬……?」
「自白剤でも媚薬でも、リヴラの一族の秘薬があれば、わしが退位する前に欲しいものを手にいれる可能性が増す……それだけだ」
「はっ!」
怪盗アプリコット・ムーンへの取り調べを早めるために、拷問だけでなく薬もあった方が良いと言われ、ウィルバーはなるほどと頷く。
「オリヴィアどのなら東の塔にいる。転移魔法で送ろうか?」