白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「ジェイニー・ジェミナイ。王のための魔法を無駄につかう必要はないよ。歩いて向かう」
「では、風の精霊にその旨伝えておこう」
アイカラスとジェイニーを残し、今度こそ玉座の間を辞したウィルバーは、東の塔へと足を向け、歩きだす。
オリヴィアのもとに薬を調剤してもらうため。
異母兄フェリックスは苦手だが、彼の妻であるオリヴィアはウィルバーのような王族のはみ出しものであっても、対等に接してくれる。もともとのおおらかで気さくな人柄は、薬師の一族という生まれにふさわしいものだ。
それもそのはず、アルヴスから亡命してきたフェリックスを看病したことがふたりの出逢いで、それを知ったマーマデュークが強引に結婚させてしまったというなかなかに強烈な馴れ初めが国民たちの間にも知れ渡っている。
魔法嫌いなフェリックスだが、妻の薬師としての腕は認めており、彼が王位に就いた際にはそのまま宰相位に彼女の一族、リヴラが任命されることも決まっている。
胡散臭い影武者を立てたり、未来を予知したり、心の声を透視したりする魔法はこれからの時代不要だと、ノーザンクロスやジェミナイの一族を一蹴した形だ。