白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ラーウスのリヴラと言えば優秀な薬師の一族で、ノーザンクロスやジェミナイより魔術師としてのちからは劣るものの、調薬能力が廃れつつある魔法に変わる知識として重要視されている。アイカラスに代わりフェリックスが戴冠することで、魔法に頼っていたスワンレイク王国の形が良くも悪くも変わっていくのだろう。

 ――陛下が退位されたら、役割を終えたジェイニーも左遷されるだろうからな。

 ノーザンクロスの一族はアイカラスに忠誠を誓ってはいるものの、彼に“愛”を捧げるほどの大魔法はつかわない。代わって彼の傍についたジェミナイの一族は、影武者を立てることでアイカラスと対等に王政に関わってきた。いまはまだおとなしいリヴラの一族だが、フェリックスが王となり、魔法と訣別することを国民に告げたとき、どんな反応を見せるのだろう。

 ――フェリックス兄上は、その魔法との決別に、怪盗アプリコット・ムーンの処刑を利用するつもりだ。そのことに気づいたから、伯父上は俺をせっついた……いっそのこと花嫁にしちまえ、と。

「お待ちしておりましたわ、憲兵団長ウィルバーさま」
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