白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 その香りを嗅いだ一瞬だけ脳裡に過った情景に、ウィルバーは困惑する。妖精のように可憐な少女から大人の女性へと成長していった彼女の姿が……なぜ、花の離宮につないでいるあの淫らな女怪盗の姿と重なるんだ?

「けど、懐かしい香り、かもしれない……」
「そう? なら持っていっていいわよ。実際につかうかはそのとき考えればいいんだし」

 不思議そうな表情をして、オリヴィアは小瓶に蓋をして、ウィルバーに持たせる。

「それよりオススメなのはこちらにある直接口に含むタイプかな。桃色の小瓶はさっきの香油を飲めるようにしたもので、媚薬としての速効性はこれが一番。あと、こっちの小瓶も強い媚薬効果があるんだけど、どちらかといえば自白剤に近いかな……ただ、依存性があるからはじめのうちは少量ずつ使っていった方がいいわね」
「最初からたくさん飲ませるのは危険なのか?」
「言ったでしょう? この薬は精神に働きかけることで絶大な快楽をもたらすの。女怪盗の心を壊したいのならいくらでも飲ませて構わないけど……最終的には記憶も消し去って、事情聴取どころじゃなくなるわよ」

 心を壊す。記憶を消し去る。
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