白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「丸いのはジェイニーから依頼されていた肝臓の薬よ。国王陛下、半年前から具合が悪かったの……誰も気づいてなかったみたいだけど。医師から正式な発表がされてないから、知っているのはフェリックスさまと宰相どのとわたくしだけ。まだ陛下にもきちんと告げてはいないのよ。ただ、退位のはなしをされたことを考えると、気づいているのかもしれないわね。いちおうここだけの話にしてね。ちなみにこの薬は病状を遅らせて寿命を延ばす効能があるの。ただ、材料のひとつであるかの国の珊瑚蓮の実を調達するのが大変で……」
「俺なんかに教えていいんですか?」
「何言ってるの。あなたもスワンレイク王家の一員でしょ。国王陛下の寿命はもってあと五年くらい……孫の顔はうちのダドリー見てるからいいって言ってたけど、末のウィル、あなたのことすごく気にかけてたんだから。早く可愛い女の子捕まえて幸せになりなさいよ?」
「いまは仕事が忙しいんです」
「知ってるわよ。だけどすこしくらいあたまの片隅にでもいれておきなさいって話」
居心地が悪くなったウィルバーは慌ててもうひとつの無色透明な液体が入った瓶を指さし、「そっちは?」と問いかける。