白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
けれど、英雄と呼ばれるようになったウィルバーは空虚な気分でいる。あのとき「白鳥の雛鳥さん」と呼んでくれた鈴のような可愛らしい声音が恋しい。彼女が成長したいまの自分を知ったら喜んでくれるだろうか。
――彼女、って誰だっけ?
なんだかオリヴィアの物忘れが伝染してしまったみたいだ。
もやもやした思いを抱えながら、ウィルバーは早々と調剤作業を再開しだした義姉の背中に一礼をして、東の塔を辞すのだった。