白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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「なるほどねぇ」
花の離宮でアルヴス製の紅茶を嫌味のように飲みながら、ゴドウィンは年の離れた異母弟の空色の瞳を覗きこむ。フェリックスと違い、ゴドウィンは人懐っこく、アルヴスにいた頃からウィルバーを気にかけてくれていた。亡命する直前に「一緒に来ないか」と誘ってくれた唯一の血縁者でもある。
だが、奴隷階級の母を持つウィルバーはフェリックスとゴドウィンの兄弟のような教育を受けさせてもらえなかった。同じ父親というだけで、十歳以上はなれたふたりの兄と遊ぶこともできず、アルヴスにいた頃のウィルバーは孤立していた。
それでも、父公爵が生存中はふたりの兄たちとの接点は残されていた。なかでもゴドウィンはウィルバーを邸から連れ出し遠駆けに付き合わせたり、狩りの仕方を教えたり、古くささが残る貴族らしい遊びに誘ってくれたものだ。父が亡くなって、故国の運命が傾いてからは、そうもいかなくなってしまったが……
「ゴドウィンさまこそ、どうしてこちらへ……?」