白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 突然遊びに誘いに来ていた昔と現在の状況が交錯する。けれども今日は遊びへの誘いではない。なぜ王から特別な人間以外立ち入りを禁じられている花の離宮にわざわざ乗り込み、怪盗アプリコット・ムーンに会いに来たのか。もしや、ゴドウィンが彼女の胸にキスマークをつけた張本人なのか?

 不躾な視線を受けて、ゴドウィンは苦笑を浮かべる。

「に・い・さ・ま、だよ。どうしたんだい、そんな顔して。まだ何も言ってないのに。まるで手にいれた玩具を取られたくないと頑なになっている子どものようだぞ」
「子どもで結構。俺は怪盗アプリコット・ムーンが自分の運命の女(ファム・ファタール)だと思ったんです。だから国王陛下にも彼女を望んだんです。けど」
「フェリックス兄上が王位についたら、君が手にするはずのものが取り上げられて、壊されてしまう可能性がある、と」
「……ご、にいさまも、そう思いますよね?」
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