白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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ほんとうは、誰にも見せたくない。
けれど、ゴドウィンが彼女の正体を知っているというのならば……
怪盗アプリコット・ムーンの顔を見せなくてはいけない。
ウィルバーの葛藤を見守っていたゴドウィンは、ゆっくりと空になったカップを卓に置く。
「君ならそう言ってくれると思ったよ。なに、とって食べるようなことはしないさ……これでも遊ぶ女は選んでるんだ。ってなんだよその疑り深い眼差しはっ」
無言で立ち上がり、不機嫌を隠すことなくウィルバーが鍵束を手に取り、階段をあがっていく。
早足で自身の寝室の前まで来たウィルバーは、ノックをすることなく鍵穴へ突っ込む。
「レディが眠っているのにノックもしないなんて、無粋だなぁ」
「しぃ。まだ眠ってるかもしれません……顔だけ確認したらすぐ帰ってください」
「はいはい、わかりましたよ」
ぎぃ、という音とともに開かれた扉の向こうは、朝、ウィルバーが出掛けていったときと変わっている様子はなかった。