白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
寝台の上には鎖につながれた怪盗アプリコット・ムーンが敷布を被ってすやすやと眠っている。よほど疲れているのだろう、ウィルバーとゴドウィンが入ってきても気づいた様子はない。
「……こりゃ驚いた。ずいぶん若い令嬢じゃあないか。怪盗アプリコット・ムーンといえばグラマラスな美女だって噂が絶えなかったというのに」
「――では、にいさまは彼女と逢ったことはないと?」
訝しげに声をかければ、こんな幼さが残る女性と遊ぶ趣味はないよと乾いた笑みを浮かべる。
「一夜の遊びのお相手として、はないな……けど、王城で見かけたことはあるかもしれない」
「王城で?」
思いがけない単語に、ウィルバーは色めきたつ。もしかしたら、国王アイカラスの言うとおり彼女はやんごとなき一族の姫君なのかもしれない。
「ほら、つい最近だよ。結婚式があっただろ? 民衆たちに白鳥の湖に星が墜とされた、とかいう」
「白鳥の湖に星……」
白鳥の湖、というのは自分達スワンレイク王家のことだろう。けれど、星が何を示唆しているのか、ウィルバーには判断できない。