白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーは申し訳なさそうに異母兄に向き直り、帰るよう無言で促す。ゴドウィンも理解したのだろう、苦笑を浮かべながら、寝室から出ていく。
「門までお送りしますよ、にいさま」
ウィルバーが心を砕いている女怪盗を目の当たりにしたゴドウィンは、心ここに在らずという状態だった。だが、ウィルバーとともに赤みがかった黄色いアプリコット・ムーンの花が咲き乱れている門前に出て、彼はすっきりした表情で告げる。
「異母弟よ。もしあの娘が北十字に属する姫君だとしたら、フェリックス兄上の考えを改めさせることが可能かもしれぬ」
「な……?」
目をまるくするウィルバーを見て、ゴドウィンは軽やかに笑う。
「彼女はもう魔法がつかえないと口にしていたが、つかえないと思い込んでいるだけだ。北十字の星詠みのちからを持つ翡翠色の虹彩は、手放した“愛”を欲しているだけにすぎぬ」
「手放した“愛”?」
滔々と話すゴドウィンに引き込まれながら、ウィルバーは考えを巡らせていく。