白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
国王アイカラスの言葉と、ゴドウィンの言葉は似て非なるもの。伯父は“愛”を与えて奇跡を起こせと唆し、異母兄は彼女が手放したとされる“愛”を探せと言う。
それが可能なのは、怪盗アプリコット・ムーンというひとりの女性に並みならぬ執着を持ってしまった憲兵団長ウィルバーただひとり。
「そうだよ。だから花の離宮で君は試されている。彼女の手放した“愛”よりもおおきな“愛”で包み込めば、君の勝ち……国王陛下もきっと、そう考えているはずだ」
たとえ彼女が求める“愛”がウィルバーのものでなくても、それに勝る“愛”を与えて自分なしでいられなくしてしまえばよいのだと、ゴドウィンは囁く。
「ノーザンクロスの一族は“愛”を捧げ、時間干渉の魔法をつかう。なかでも“性愛”による契約は特別だ」
ラーウスへ亡命したゴドウィンは初代国王マーマデュークと宮廷魔術師アイーダ・ノーザンクロスから直接魔法について指導を受けていた。長子フェリックスと異なり、気楽な次男坊は政治よりも新大陸に残る古代魔術の研究にのめり込み、多くの著者を残すほどの学者となった。