白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
だから、王族のなかで彼はウィルバーとは別の意味で異端視されている。それゆえ結婚相手はアルヴスからともに亡命してきた令嬢を宛がわれたわけだ。これ以上ラーウスの古代魔術にのめり込んで身を滅ぼさないよう、アイーダのお節介によって。
それでもゴドウィンの古代魔術への熱意は変わりなく、彼は結婚後も妻と死別してからも王城でフェリックスの息子ダドリーの教育係を勤めたり、国王アイカラスの宰相ジェイニーと魔術談義に花を咲かせたりと、好き勝手生きている。
今になって痛感する。ゴドウィンはただ、怪盗アプリコット・ムーンが古代魔術を扱っていたことを知って顔を見に来たかっただけなのだと。ウィルバーから彼女を奪うことなど、はじめから考えてもいなかったのだと。
「――だから、孕ませろ、と?」
「父上がそう言ったのかい? 的を得た発言だ」
「で、ですが」
「ウィル。君にとっては辛い判断かもしれない。気持ちを通じあわせていない女性を快楽だけでつなぎ止め、自分のものにする獣のような行為は……けれど、ここで彼女を引き留めないと、君の未来は更に最悪なものとなる」
「怪盗アプリコット・ムーンの処刑ですか」