白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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ウィルバーとゴドウィンが寝室から姿を消したのを見送り、ローザベルはふぅとため息をつく。
なぜゴドウィンがウィルバーとともに囚われている自分を見に来たのだろう。ましてや存在がなかったことにされたローザベルをノーザンクロスの一族だと見破るなんて……
「そうだ、ゴドウィンさまはラーウスの魔術理論を習得されてた……」
曾祖母アイーダが存命中、よく彼が魔法の知識を求めにノーザンクロスの邸に入り浸っていたのを思いだし、乾いた笑みを浮かべる。
ノーザンクロスの姫君であるローザベルのことは忘れていても、ノーザンクロスの一族に関する知識は残ったままだ。翡翠色の瞳の持ち主である怪盗アプリコット・ムーンを見て、確信したのだろう……女怪盗が北十字の星詠みの一族と縁あることに。
だけど、それを知られたからといって、いまさら正体をウィルバーに明かすのもどうかと思う。ウィルバーは自分を愛玩奴隷として傍に置きつづけるつもりでいるし、自分は王家に処刑されても仕方ないと思っている。ここでちからを失った女怪盗の身元が判明したところで、どうにもならない。