白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ノーザンクロスの両親がコンタクトを取ってこないことからも、自分は見捨てられたのだろうと考えている。彼らのことだからローザベルが“やりなおしの魔法”をつかって国家の危機を救ったのは理解しているはずだ。ただ、その際にへまをやらかして捕まった怪盗アプリコット・ムーンのことまで面倒見切れないのだろう。それとも、すべてを知る国王アイカラスがなんらかの圧力をかけているのか……どっちにしろ、両親はあてにならないと、ローザベルは考えを放棄する。
「いまのわたしが使えるのは、小さき精霊さんのちからだけ……“稀なる石”がつかえれば」
「“稀なる石”が、必要なのか?」
「――憲兵団長、ウィルバー……」
花の離宮の門前でゴドウィンを見送ったウィルバーが、くたびれた鞄を手に、寝室に戻ってきた。
「それじゃあ、どういうことか説明してもらおうかな?」
そして、どこか哀しそうな表情を浮かべて、鞄のなかから桃色の液体が入った小瓶を取り出して――……