白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
それゆえ、ローザベル・ノーザンクロスは幼い頃から廃れつつある古代魔術の研鑽を積んだ後、当時皇太子だったアイカラスの正妃として迎えられるはずだった。
だが、ノーザンクロス家がそれでは姫様が可哀想だと猛反発。既に王妃を娶っているアイカラスが十歳の少女を囲い正妃にしてしまったら、国民も困惑するだろう。せめて、もう少し年齢の近い王族に嫁がせろ、と。
アイカラスが養子としたふたりの息子はどちらも別の有力貴族と婚姻を結んだばかりだ。離縁させずに二人目の妻として娶らせることもできたが、向こうの機嫌を損ねたくなかった父王マーマデュークはそれを是としなかった。
渋々、旧大陸に残してきた、事情を知らない、それでいて王家の監視も行き届いている当時十歳のウィルバー・スワンレイクの花嫁とすることで双方合意を得たのである。
――政略結婚とはいえ、ウィルは彼女を愛している。もともとはわしの妻にするつもりだったというのに。