白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
団員たちのなかには料理が得意な人間もいるので、生活する分には問題ない。ただ、神殿跡地という場所柄からか、魔力にあてられて使い物にならない人間も出はじめている。マイケルの祖先はラーウスの人間なので、魔法に鈍感なウィルバーのように居座るというよりは、この土地に溶け込んで、佇んでいる感じだ。いまも風の精霊がウィルバーの栗色の髪の毛をぐしゃぐしゃ乱して遊んでいる姿が見えているが、いちいち気にしてなどいられない。
「それならいい」
「それより団長、取り調べは進んでいるのですか? 自分ばっかりいい思いをしているようにしか見えないのですが」
美人でグラマラスな女怪盗を拷問し、自白を強要させるという彼に課された役割を、ほかの団員たちは羨ましそうに見守っている。
グラマラスというところは誤報だが、ウィルバーはあえてそのままにしている。もし、彼女を公の場で処刑すると国王が血迷った判断を下してしまったら……ウィルバーは彼女を連れて逃げることを、考えはじめていたから。
「そんなことはねぇ……今回は口移しで媚薬を飲ませたから、俺まで舞い上がって薬の効果が切れるまで楽しんだだけだ」