白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 国民たちの支持を勝ち得るため、また、魔法の時代は終わったのだと宣言すべく、廃人と化した怪盗アプリコット・ムーンの公開処刑が決定する。

「――最後に、言い残すことはないか」

 反吐が出るような男の声に、女怪盗は反応しない。ひたすら、自分に視線をあわせない憲兵団長のことを、救いを求めるように見つめている。かつて美しい緑柱石のような輝きを魅せていた瞳を曇らせて。
 けれど彼は最後まで彼女と顔を合わせない。

「……よい。火をつけろ!」

 磔台に向かって火のまわりを早めるための油が撒かれ、新国王万歳、の声とともに炎がかかる。
 彼女を辛うじて守っていたみすぼらしい布はあっという間に火に包まれ、女怪盗の足先から胸元にかけて炎が走る。
 声を奪われた女の悲鳴はなく、高温で肉が焼かれる焦げ臭いニオイとぱきぱきと火の粉が勢いよくはぜる音だけが、火刑が行われていることを示していた。
 かつて雪のように真っ白だった肌が焼けただれ、赤く、赤黒く、黒く変化していく。
 そして肉片がすべて燃やされ残った骨は、桃色で。


 飛び散った骨の欠片を、ウィルバーが拾い集めて、泣いている。

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