白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
そもそも自分は夫を王殺しにしたくなくて怪盗アプリコット・ムーンになったのに、なぜ自分が王殺しにならなくてはならないのだろう?
けれど夢のなかにはヒントになる事柄も隠されている。だっていま視たのは外れる確率がある予知夢……確実に起こった出来事ではない、これから起こる可能性の高い出来事でしかないのだから。
ノーザンクロスの人間にしかできない、時間干渉という名の大魔法。いちど、ウィルバーを救うために使ってしまったローザベルだが、もう一度、“やりなおしの魔法”をつかうことはできるのだろうか。
「……ひとつずつ、可能性の芽を潰していくしかないですね」
ローザベルが眠っている間に寝室はきれいに掃除されていた。おまけにお気に入りのマゼンタ色のナイトドレスを素肌の上から着せられている。どちらもウィルバーがしてくれたのだろう。
妻の記憶を失っているくせに、わたしにお気に入りのナイトドレスを着せるなんて……とまたしても複雑な気持ちになるローザベルである。
作業机の上に飾られていた水色硝子の花瓶もウィルバーの瞳の色みたいで気に入っていたが、割れてしまったのならば仕方ない。