白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ローザベルの反応に満足したのか、ウィルバーはにやりと笑って彼女が眠っていた寝台に腰を下ろす。
 ウィルバーに近づかれてびくりと身体を震わせるローザベルだったが、「今日はもうしねぇよ」と彼は小気味良く笑って彼女の髪をそうっと撫でる。
 ローザベルの黒髪をぽんぽん撫でたかと思えば、軽く口づけられ、そこに神経が走っているわけでもないのに落ち着かない気持ちになる。

「……俺も、気持ちよかった。ごめん、やっぱり手放せない。君は、何があっても起こっても、俺のモノなんだから」
「ウィルバー……?」

 その言葉は夫婦生活を送るなかで、よくウィルバーが口ずさんでいたものだ。
 何があっても起こっても、俺を見捨てたりしないで欲しいと希っていた彼は、怪盗アプリコット・ムーンを抱いて、もはや手放せないと言いたそうに、彼女の身体をかき抱いている。
 ローザベルの方が、今になって自分を見捨てたりしないでと、自分で裏切っておきながらいつまでも甘い牢獄でウィルバーに囚われていたいなどと裏腹な願いを潜めはじめてしまい、矛盾する想いに困惑しているというのに。
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