白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「怪盗アプリコット・ムーン。君が何者でも構わない。はじめは愛玩奴隷として傍に置こうと思っていたけれど、いまは花嫁にしたいと考えている。けれど、俺の使命は君の身元を割り出しことの真相を王家へ伝えることだ」
「――花嫁ですか?」
「あ……こんな形でプロポーズするなんて、おかしいよな」
「いいえ……いいえ! そんなことありません」
あえて茶化すことなく応えるローザベルに、ウィルバーはうん、と嬉しそうに頷く。
憲兵団長が怪盗に求婚する……かつての自分のことを忘れているウィルバーが、ふたたび見初めてくれた現実に戸惑いながらも、ローザベルは嬉しい気持ちを隠せず、彼の胸に顔を寄せてしまう。
「だけど……君を無事に俺の花嫁にするためには、怪盗アプリコット・ムーンの正体……身元を聞き出し、王の許可を得る必要がある。このままだんまりを貫き通すというのならば、君は愛玩奴隷のままだ。そうなったら容赦なく俺はどんどん取り調べをエスカレートさせていく。あの媚薬はまだ序の口だ」
「序の口……」
あれで序の口だと言い放つウィルバーに、ローザベルの表情が凍りつく。